Saturday, April 20
Shadow

42H1292

42H1292

Date: 02-09-96
Made in United Kingdom by IBM United Kingdom Limited,
Greenock, Scotland, UK

栄光の1391401と同じくらい長きにわたり生産された有名な機種です。1996年頃現れ,2001年の初めころまでUnicompで新品を入手できました。2001年末の段階ではオークションなどで新品が比較的安価に出回っており,ある意味で今が買い時だといえるでしょう。

IBM enhanced 101 (42H1292), which may be the last IBM model with the buckling spring technology.

1391401と違いコードは固定式です。やや高級感に欠けますが,普通に使う分には,IBM伝統の重いカールコードよりこっちの方が取り回しの点で優れていると思います。ケーブルの断面は丸く,52G9658などで見られる扁平な「メキシカン・コード」ではありません。扁平コードに比べ断線の危険も少ないと思われ,本体との接続部分もしっかりと作られています。

スイッチ構造は,鋼板に作りつけられた薄膜接点に座屈ばねをあしらったものです。基本構造はそれまでの座屈ばねとまったく同じ設計になっており,打鍵感にはほとんど差がありません。カコカコカコと気持ちよく入力できます。 ただ,製造上の品質管理が甘くなったのか,手元にある本機の新品で比べても,押し込んだ位置でのキーのぐらつきが1391401などよりもわずかに大きいと思います。

(上)III型1391401,(下)42H1292
(上)III型1391401,(下)42H1292

眺めてみて,何かが足りないという印象を残すのは,LEDのシールに縁取りがないのが大きいと思われます。機能的に違いはないのだとは思いますが,すこし寂しい感じがします。キートップの印刷も黒色単色になっていて,AltおよびSysReqの色分けも本機においては見られません。外見的特徴で言えば,青ロゴが目を引きます。青ロゴは1992年頃からIBM鍵盤に見られるものですが,本機のロゴは他の青ロゴ鍵盤とはやや色合いが異なっていて,青というより紺色に近い配色になっています。これらの特徴のせいなのか,どこか涼感があるというか,物悲しい印象を受けるのは私だけでしょうか。

それまでのIBM座屈鍵盤と根本的に異なるのが筐体です。筐体のプラスチックは1391401とは明らかに別のものを使っており,薄く,軽くできています。裏面には筐体に「PVC 23-712B」と安っぽく文字が記されていますが,この低質プラスチックの種別を表しているのでしょうか。

ファンクションキーと数字キーの間を押してみると,1391401の方はびくともしないのに,本機はぐにゃっとたわみます。裏面にはスピーカーの穴が存在しない点で,1391401との違いがはっきりとわかります。ガワを引っかいて見ると安っぽい音がします。そのためファンクションキーを叩いた時に,ボコッという筐体由来の音がわずかに混ざるのが聞こえます。ただ,強調しておきますが,鋼板を用いた内部構造は堅持されているため,この軽い筐体による打鍵感への悪影響は素人に簡単にわかるようなものではありません。私はUnicomp銘の鍵盤は現時点では持っていないのですが,この低質プラスチックが受け継がれたのかそうでないのかには興味あるところです。

裏面を見ると排水口が4つ存在しています。IBM鍵盤の防水構造については,日本鍵盤趣味者の草分け・のぐ獣氏の解説が有名です。本機の先祖である1391401に排水口が整備されるのは1992年以降に現れるIII型からです。1391401の後継機で,本機の前の世代の41G3576では,鋼板上に作りつけられた鍵盤ユニットと排水口をつなぐ道がつけられています(同氏の研究による)。本機の場合,1397681などと同様,単に4つの排水口があるだけで導水路はありません。鍵盤に液体をこぼした場合,手前(打鍵者側)もしくは左右の薄膜接点部から液体が浸入する可能性は少なくないと思いますが,それでも慎重に鍵盤を傾けて排水すれば,なんとかなりそうです。元祖1391401よりも多少なりとも進化した箇所として誉めてあげましょう。

なお,IBM鍵盤に防水構造が初めて付加された時期や型番についてはっきりしたことは不明ですが,1391401の項でも引いたbabo氏のサイトでは,“To the best of my knowledge, this new design is distinguished with a blue IBM logo instead of the gray logo previously used.” と述べられています。これは私を含めて多くの人の印象と合致するものでしょう。私の推測では,IBM系(Unicomp製品を含む)の鍵盤には,IBMの原設計と,Lexmarkの新設計の2つが存在し,前者に灰ロゴ,後者に青ロゴが与えられているのだと考えています。そして防水構造はLexmarkの改良であると。ただ,社名は違えど鍵盤製造開発部隊の出自はいずれもIBMのLexington事業所だと思われますので,これらの分類も微妙な点もあります。のく獣氏の研究の進展に期待します。

排水口には導水路が見えない
排水口には導水路が見えない

キートップは着脱式です。 本機のキートップ表面の凸凹は1391401よりもわずかに小さいように思います。触ってみると多少滑らかな印象です。これはUNI04C6と共通な特徴です。キートップの磨耗の速度に1391401と相違があるかどうかについては,テカリが生じるほど使い込んでいないこともあり,何とも言えません。上の写真の通り,基板の色は黒です。1391401初期型に見られるような安定用金具は廃止されています。キーの並びがやや乱れている様子が写真から見て取れます。このような精度の低下が,キーのわずかなぐらつきにつながっているのでしょう。

キー構造についての特筆すべき事実として,スペースバーと本体が金属線でつながれているという点が挙げられます。1390131や1391472で説明したように,電気回路部を金属線を介して鋼板に接地する構造はIBM鍵盤に広く見られる構造ですが,スペースバーの接地は,私の知る限り本機しかありません。babo氏は「湾曲鋼板とスペースバーの支柱をワイヤーでつないだからといって一体どうなるのか謎だ(i don’t see how attaching a wire to the curved metal plate and to one of the internal plastic supports of the space bar does anything.)」などと書いています。私の推測では,これは静電気対策ではないかと思います。筐体のこのプラスチックは,以前の材質より静電気を溜めやすいなどの事情があり,接地効果を強化する必要があったのではないでしょうか。確かにスペースパーは使用時には指に常時接しているので,静電気の逃がし先としては良いような気もします。正確なところを知っている方がいらっしゃればぜひ教えてください。

持ち上げてみると明らかに本機は1391401よりも軽くできています。やはり,全体的に質感に欠ける感は否めません。すぐれた比較対象を持つ機種の悲哀といったところでしょうか。ついでに言えば,リテール品の梱包材は,それまでの発泡スチロールが廃され,簡易的なダンボール包装になっています。やや物悲しい気がしますが,自重の減少を考えれば,同数積み上げる時の箱の耐荷重は減らしてもよいわけで,合理的な変更と言うこともできます。

2001年8月現在,Unicompでは品切れとなっています。Unicomp銘の42H1292Uなら入手できます。NeotecにもIBM銘の42H1292は残ってないようです。日本のオークションサイトではまだ新品が比較的安く(1万円以下)で入手できるようです。上記のような品質劣化の噂が出回っているためか,あまり人気はないようですが,実際のところ素人がすぐわかるような差はありません。座屈ばね・IBMロゴつき・簡易防水構造,と基本的なところは押さえられているため,ある意味でお買い得と言えるでしょう。