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Tsuyoshi Ide

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高輝度液晶ディスプレイのためのドットパターン生成技術

井手剛が2000年から2001年に研究開発に関与した「集光バックライト」に関するエッセイです。

FlexViewディスプレイとドットパターン技術

ノートPCのディスプレイがどういう仕組みになっているか想像したことはあるでしょうか。あの大きな画面が一様に光っていることから考えて、背後に平べったい発光体があるようにも思えますが、実はそうではありません。驚くべきことに、あの大きな画面の全体は、直径1ミリほどの細い1本の蛍光管で照らされているのです。

ノートPCに採用されている液晶ディスプレイの形式を普通、エッジライト型と呼びます。縁(エッジ)にライトを配置する、という意味です。概要を下図に示します。CCFLと書いたのが蛍光管です。

ノートパソコン用液晶ディスプレイの構造
図1 ノートパソコン用液晶ディスプレイの構造

2001年10月、IBMは、 FlexViewという新型ディスプレイを搭載したハイエンドノートPC「ThinkPad A30p」を発表しました。このディスプレイは、1600×1200ドットという高精細に加え、IPS方式という超高視野角技術をノートPCとして初めて実現した革新的な製品でした。

FlexViewディスプレイの製品化のためには、解決すべき問題がひとつありました。それは、高輝度化・高精細化を狙って光利用効率を極限まで上げた結果、画面に醜い輝度ムラが現れてしまうという問題です。

エッジライト型のディスプレイは、幾何光学の芸術作品とでも言うべきもので、技術的完成度は非常に高いものがあります。何せ幾何光学という学問は、ニュートンの時代から300年以上の歴史があります。その技術的・学問的蓄積に基づいて、ありとあらゆる回避策が試みられましたが、どれひとつとして抜本的な解決を与えるものはありませんでした。ほとんど刀折れ矢尽きた頃、開発担当者らは、この難問がそれまで考えもしなかったような手法により解決されるのを見ることになります。

それが、IBM東京基礎研究所の開発した光学散乱体配置の最適化技術、すなわち不規則ドットパターン生成技術です。

ウォール街を熱狂させた数学者

FlexViewディスプレイ発表の6年前の夏、まだヘッジファンドの活躍に沸いていた頃のウォール街に衝撃が駆け巡りました。IBM東京基礎研究所の数学者 S. Tezuka らによる「超一様分布列(low-discrepancy sequences)」についての画期的な研究成果を、ニューヨークタイムズをはじめとする有力メディアが報じたのです[1]。

Tezukaらの結果は、彼らの発展させた超一様分布列についての理論を用いれば、デリバティブと呼ばれる金融商品の価格を予測するための複雑な計算を、実に数百倍も高速化できるという驚くべきものでした。当時、彼らの成果を組み込んだソフトウェアは、単体で実に1億円(百万ドル)もの値がついたそうです[1]。

擬似乱数と超一様分布列の比較
図2 擬似乱数と超一様分布列の比較

元々Tezukaらの研究は、モンテカルロ積分のための乱数生成という問題意識に派生していました[1,2]。その分布列を絵として示したのが図2です。左が擬似乱数、右がTezukaの超一様分布列です。後者の方がより均一であることがわかります。この一見何気ない均一さが、モンテカルロ計算の驚異的な性能改善の鍵となっているのです。

ディスプレイへの適用をめぐる関門

この超一様分布列を、液晶ディスプレイの光学散乱体の分布の最適化に適用できないかと思いついた研究者がいました。

図1に示すように、液晶ディスプレイには、導光板(light guide)や光拡散フィルム(diffuser film)といった部材が含まれています。輝度分布を一様化するために、それらの表面には0.1ミリ径程度の光学散乱体が非常に多数配置されます。その光学散乱体群は、薄膜トランジスタの配線パターンや、いわゆるプリズムシート(prism sheet)表面の規則パターンとの干渉を避けるように上手に配置させなければなりません。うまく配置させられないと、ディスプレイ表面にモアレ縞や醜い輝度ムラが現れてしまいます。

しかし従来の方法をいくら工夫しても輝度ムラを消すことが出来ませんでした。そこで窮余の策として、一様性と不規則性を兼ね備えたTezuka数列に目をつけたわけです。ところが、確かに超一様分布列は、擬似乱数よりも均一な分布を与えるのですが、数学で考える「点」と異なり、実際の光学散乱体には有限の大きさがあるため、素朴に超一様分布列を使っただけでは、図2のように芋虫模様のようなものが目視されてしまいます。

すなわち、超一様分布列を光学散乱体分布の最適化に使うためには、下記のような実用上の要請を満たす必要がありました。

  • 散乱体配置は十分不規則で、しかし局所的には一様でなければならない
  • 散乱体同士の最小距離を所与の有限値に保たなければならない
  • 散乱体の充填率を連続的に変化させなければならない
  • 合計100万個以上となる光学散乱体の配置を、現実的な計算時間で最適化しなければならない

従来数学的存在でしかなかった超一様分布列を、物理的な散乱体の配置に直接適用するという初めて試みのために、どうしても越えなければならない壁でした。

Dynamical LDS法による解決

H. Mizuta および Y. Tairaらと共同で私は、上記の問題に対する解決策を与え、ディスプレイ技術に関する世界最大の国際会議「Society for Information Display」において発表しました[3]。そのプレゼンテーション資料の末尾には、ThinkPad A30p の写真がさりげなく、しかし誇らしげに添えられています。それはFlexViewディスプレイの開発にかかわったすばらしい技術者たち──日本人技術者たち──への、私からの謝辞のつもりでした。

私達の開発した手法は”Dot pattern generation technique using molecular dynamics”という題で論文にまとめられています[4]。Tezukaらの偉大な仕事に最上級の謝辞を述べていることは言うまでもありません。この題からも知れるとおり、私達の手法の特徴は、散乱体の位置の最適化に分子動力学的な模型を用いていることです。また、散乱体充填率を連続的に変化させるために、仮想的に次元をひとつ付け加えた3次元の超一様分布列を利用する手法を提案しています。詳細は上記原論文、もしくは解説[5,6]をご覧下さい。

図3に、私達の手法(DLDS法)で生成された不規則ドットパターンの例を示します。右が充填率分布、左が(やや画質が悪いですが)それに対応するドットパターンです。不規則パターンの質を問わなければ、所与の充填率分布を持つように点を分布させるのはさほど難しいことではありません。超一様分布列と巧妙な力学模型を組み合わせることにより、液晶ディスプレイにおける厳しい基準をクリアする超高品質の不規則ドットパターンが生成できる、というのがポイントです。

DLDS法で生成されたドットパターンの例
図3 DLDS法で生成されたドットパターンの例

実際の輝度一様化の一例として、導光板に私達のパターンを適用した実験結果を示します(図 4)。PRP法というそれまでの最善の手法ではどうしても消すことができなかったモアレ縞をきれいに除去していることがわかります。

当初導光板を想定して考えられたこのドットパターン生成技術ですが、その後、 H.Numata および Y.Katsuらにより拡散フィルム等にも適用され[7]、高輝度液晶ディスプレイに対する輝度一様化のための統一的な解決策を与える手法として認知されています[8]。

DLDS法によるモアレ縞の除去
図4 DLDS法によるモアレ縞の除去(撮影: H. Numata)

高品質の不規則ドットパターンを作るという問題は、このほかにも印刷物の画質向上のためなどに重要な工学的意義を持ち、「デジタルハーフトーニング理論」「ディザリング理論」といった名前で数十年の研究の歴史を持っています。その研究の過程で明らかになったことのひとつに、数学的に完全な不規則性が人間の目にとって最上の不規則性とはならない、という事実があります。

ある数学的定義に従えば、完全な不規則性のことを、「ドットの分布が白色である」と表現することができます。しかし、人間の目にとって心地よい不規則さは、実は、青ないし緑色がかった分布であることが知られています[9]。私達の研究は、ドットパターンの性能評価指標としての「discrepancy」の意義を強調した点と、分布に青色性を導入するための原理的に最も優れた方法を与えているという点において、先駆的な価値を持っていると言えるでしょう。


今やIBMは一般消費者向けPC製品の製造から手を引き、ThinkPadが花形だった時代とはまた別の会社として生まれ変わりつつあります。ドットパターン生成技術の開発は、個人的には入社間もない頃の自分の思い出として、また、IBM史という観点では、ThinkPadという一時代を築いたブランドにIBMerが情熱を傾けることのできた時代のひとつのエピソードとして、印象深く私の胸にしまわれています。

参考文献

  1. 手塚集, “ウォール街を動かすソフトウェア,” 岩波科学ライブラリー 84, 岩波書店, 2002.
  2. 汪金芳, 田栗正章, 手塚集, 樺島祥介, 上田修功, 計算統計I 確率計算の新しい手法, 岩波書店, 2003.
  3. T. Ide, H. Humata, H. Mizuta, Y. Taira, M. Suzuki, M. Noguchi, and Y. Katsu, “Moire-Free Collimating Light Guide with Low-Discrepancy Dot Patterns,” Digest of Technical Papers (Society for Information Display, Boston, 2002), pp. 1232-1235 [ppt file].
  4. T. Ide, H. Mizuta, H. Humata, Y. Taira, M. Suzuki, M. Noguchi, and Y. Katsu, “Dot pattern generation technique using molecular dynamics,” Journal of the Optical Society of America, A, 20 (2003) 242-255.
  5. 井手剛, 平洋一, “ドットパターン生成技術と光学系” 月刊ディスプレイ, テクノタイムズ社, vol.9, No.1 (2003).
  6. 井手剛, 沼田英俊, 水田秀行, 平洋一, 鈴木優,野口通一,勝義浩, “不規則かつ均質なドットパターンを生成する手法とその光学部材への適用,”第27回光学シンポジウム予稿集, 日本光学会, 2002.
  7. 沼田英俊, 勝義浩, 井手剛, 水田秀行, 平洋一, 鈴木優,野口通一, “ドットパターン技術による液晶表示装置の輝度一様化,” 2002年秋季 第63回 応用物理学会学術講演会, 2002年9月.
  8. T. Ide, H. Humata, Y. Taira, H. Mizuta, M. Suzuki, M. Noguchi, and Y. Katsu, “A novel dot-pattern generation to improve luminance uniformity of an LCD backlight,” Journal of the Society for Information Display, Vol.11, No.4 (2003) 659-665.
  9. Robert Ulichney, Digital Halftoning, MIT Press, 1987.

Tsuyoshi Ide, Ph.D.

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About my name

I go by “Ide-san” (pronounced as ee-de-san) at work. Ide (井手) is my family name in Japanese and “san” is something like “Mr./Ms.” (but sounds much friendlier). Tsuyoshi (剛) is my given name meaning “strong like steel.” In Japanese, my name is spelled as 井手 剛. I sometimes use “Thomas” in my home neighborhood.

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