Saturday, October 23
Shadow

1390131

1390131

Part No. 1390131
Date 22JAN87
Plt No J1 Model M

「角ロゴ」という名前でその筋の人々に知られる鍵盤です。この型番は1986年から1987年にかけて発売されたことが確認されています。私の手元にあるものは上記の通り1987年1月製造です。正方形のロゴが一見して高級感を醸し出しており,すべてのIBM101鍵盤の中で,別格の風格を感じさせます。

1390131。enhanced 101鍵盤の初代モデルと考えられる
1390131。enhanced 101鍵盤の初代モデルと考えられる

このロゴはIBM PC鍵盤のロゴから踏襲されているものです。一般消費者向けのIBM鍵盤では,このロゴは1987年ころに姿を消し,その後は長い間,楕円形の縁取りにIBM印が斜めに入ったおなじみのロゴが流通していました。

「みみラボ」における1391401の評を引くまでもなく,IBMのいわゆるメカニカル・キーボードには,昨今のPC製品とはまったく異なる存在感があります。単に入力装置としての鍵盤でありながら,その定義をはるかに超えた余力を感じます。清掃のために分解してみると,部品のひとつひとつの質感に,電動タイプライターの名門メーカーであったIBMの伝統を感じます。少なくともPCに関しては,良いものが勝つ,という命題を信じられた幸福な時代の所産です。

この鍵盤を眺めていて鈴木保奈美という女優について思い出しました。ナンシー関という辛口の芸能批評を得意とするライターが,ずっと前に「噂の眞相」誌のコラムで書いたことには(「顔面至上主義」),素人の美人と本物の女優を区別するものは,その美貌を保ちつつさらにどれだけの余力を持っているか,という点だそうです。あるポスターに写った鈴木保奈美の親指の爪が,不恰好なオヤジ爪であるのを発見したナンシー氏は,ああこの女はぎりぎりのカツカツでこのレベルなのだと悟ったのだそうです。余力なき女優・鈴木保奈美。この決め付けが本当に正しいかは別として,精一杯のぎりぎりカツカツな粗悪キーボードの多い昨今では,デザイン上も機能的にも一切媚を売ることなく突出した魅力を醸し出す本機に,本物の凄みを感ぜずにはいられません。

裏面には,1391401などと同様に,スピーカー穴がありますが,中は空洞です。ケーブルは着脱式で,本体との接続コネクタは1391401などと同じです。私の手元にあるものには付いていませんでしたが,単体での市販品には,PC/AT鍵盤のカールコードに似た,黒くて太い着脱式のケーブルが添付されていたようです。

1980年代のIBM鍵盤に特徴的なのですが,大型キーには安定用金具が備えられています。写真のように,この金具がつけられているのは,スペースバーと,10キー部のEnterおよび+キーです。上の写真をよく見ると,安定用金具が微妙に曲がっていることがわかります。これについてはThe keyboards Fileというサイトにコメントがあります。

 

裏面にある呼び径5.5ミリのねじ*を4本外すと(VESSEL社の「ベクトル・ナットドライバー」なんかを使います),上下の筐体と基板部分の3つに分解できます。円筒型の断面を持つ鋼板と電気回路基板は,下の写真のように,大変太いアース線でつながれています。こういうところに余裕を感じるわけです。上記The keyboards Fileというサイトによれば,このアース線は時代と共に貧相になってゆくそうです。引用もリンクもできないのが残念なのですが,大変面白い発見だと思います。
* 本当はインチねじなのかもしれませんが,M5.5のドライバーが使えます。

基板を筐体の下部部分に載せた写真を下に示します。湾曲した基板が筐体を枕にするように置かれている様子がわかります。Enterおよび+キーにつけられた安定用金具が基板の爪にはまっている様子もわかります。

下は裏面の写真です。黒く見えるのは溶着されたプラスチックです。ラベルには,PT No. 1386085などと書かれています。検品者のサインがあり面白いです。

本機のキータッチは,その後の1391401などとまったく同一です。打鍵感の評価はそちらに譲ります。構造的にも,キートップが着脱式であることなど,1391401のI型と非常によく似た特徴があります。基本的に,ロゴのみのマイナーチェンジなのだと思われますが,この変更のおかげで本機が相対的に希少品となってしまい,日本のオークション市場では2001年の冬の時点では,状態のよいものだと2万円前後の高値がついています。

「角ロゴ」のIBM座屈ばね鍵盤については,本機のほかに,1390120という型番が知られています。これも本機と同時期,1986年から1987年にかけて製造されたと考えられています。両者を区別するものはLED部分に覆いがあるかないかです。この相違は,XTとATという新旧二つのアーキテクチャの間の相克に関係しています。1390120の項をご覧下さい。

角ロゴ鍵盤としては1390653というモデルも知られています。これは1988年頃まで生産されたと思われるもので,本機と構造上は同じだと思いますが,筐体が濃い灰色になっています。この種の筐体を持つ鍵盤には,私の知る限り41G3555というスペイン語版の84-key Space Saverがあります。IBMのサイトに型番が出てきます。しかし個体数が極めて限られており,詳細はよくわかっていません。