Friday, March 29
Shadow

13H6705

13H6705

Date: 08/28/95
Plt.No. L1 Model M13
Manufactured for IBM by Lexmark
Made in USA

トラックポイントIIがついた101座屈ばね式鍵盤です。92G7461の色違い版です。92G7461と同様,Lexmark製とMaxiSwitch製の2種類が存在しますが,両者に差異はありません。IBMの座屈ばね式鍵盤の中で黒色というのは珍しく,黒と赤のThinkPadカラーのブランドイメージとあいまって,日米ともに人気があります。オークションでは頻繁に見かけます。日本では1万円台前半から中盤の値がついています。元の値段は189ドルだったようです。

遠目には,現行の人気商品であるSpace Saver Keyboard IIと同様の,現代的軽量キーボードに見えますが,手にもちつつ眺めてみると,全体にいかにも重厚さを感じ,熊の置物のような迫力を感じます。全体の大きさは1391401以来継承されている標準サイズなのですが,実寸よりも大きく威圧感を感じます。打鍵感は,個体差と経年変化を除けば1391401などenhanced 101系統とまったく同様だと思います。

現在のIBM製品の多くは,本機のようなThinkPadカラーで統一されていますが,たとえば今でもNetVistaなどがそうですが,少し前までは乳白色の事務機色に青色をあしらうデザインが主流でした。もともとアメリカではIBMはBigBlueなどと呼ばれていて,青が会社を象徴する色になっています。ただ,IBMのサイトによれば,このブルーという色とIBMとの間には,ちゃんとした歴史があるわけではないそうです。何でも,1980年代ころから,メインフレームを覆っていた青色のカバーから連想されたのではないか,とのことです。

ざっと全体的な特徴を見ていきましょう。トラックポイントIIには,表面に滑り止め加工がなされていない旧式のゴムキャップが付属しています。

(左)旧式の赤色ゴム製キャップ、 (中)旧式の黒色ゴム製キャップ、 (右)現在使われているキャップ
(左)旧式の赤色ゴム製キャップ、 (中)旧式の黒色ゴム製キャップ、 (右)現在使われているキャップ

新品で買うと,赤と黒のゴムキャップがひとつづつ同梱されています。Space Saver Keyboard IIに装備されているスクロールボタンはなく,Webサイトを見る時などにはやや不便に感じます。ケーブルの先は,キーボード用のPS/2プラグとマウス用のプラグの二股になっていて(上の写真参照),PCにこの両者を挿して使います。下の写真のように,マウス使用時のために,本体にはマウス用の端子があります。ただし,ホイールは使えないので,USBマウスを使うのが現実的です。

そのケーブルは,1995年前後にMaxiSwitchかLexmarkで生産されたIBM鍵盤に見られる扁平な「メキシカン・コード」で,たとえば92G7461や52G9658にもその例を見ることができます。写真を下に示します。その後の時代のモデル,たとえば42H1292ではこの扁平な形状のケーブルは廃止され,丸断面の固定式ケーブルとなります。

41G3576についてののぐ獣さんの研究以来,IBM鍵盤の排水機構に興味を持つ人も多いようです。本機には導水路を備えた排水口が装備されています。下の写真のように排水口から導水路の縁が見えています。ただ,本機にはトラックポイントのボタンが前面にありますので,たとえ排水機構が備えられていても安心できるわけではありません。

冒頭で本機は92G7461の色違い版だ,と書きましたが,実際これが発売された頃のIBMの文章を読むと,白でも黒でもお好きな方を選べます,というのがひとつのウリになっています。それまでは,IBM鍵盤と言えばクリーム色の事務機カラー一本槍だったわけですので,歴史的意義のある鍵盤であると言えます。IBMがデザイン的な要求に応えざるを得なかったのは,計算機の大衆化に伴う状況の変化を示していると解釈できて興味深いです。また,1995年という年は,バタフライ・キーボードとして有名なThinkPad701Cが話題をさらった年であり,ThinkPadのデザインが大衆的に認知されつつあった時期でもあるのでしょう。

下記に,本機とその兄弟機92G7461のスペックを掲げます。“IBM Enhanced Keyboard with TrackPoint II at a glance ”としてIBMのサイトに掲載されているものです。あまり有意義な情報はないのですが,筐体の正確な寸法がわかることと,本機が部分的にタイおよび台湾で製造されたと明記されていることが目を引きます。

ProductEnhanced Keyboard with TrackPoint II
Part numbersPearl white: 92G7461; Raven black: 13H6705
AttachmentVia two 6-pin mini-DIN connectors for mouse port and keyboard port
Dimensions1.73″ H x 19.37″ W x 8.27″ D
(44mm x 492mm x 210mm)
Operating environment50° F to 105° F (10° C to 40° C);
8% to 80% humidity
Agency approvalsCompliance with the U.S. FCC Rules and Regulations, Part 15 digital devices, Class B limits; circuit board UL recognized 94V-1 or better; certified by UL, CSA and TUV
Power+5 volts DC ± 10%
Limited warrantyOne year
Country of originKeyboards and pointing devices may be manufactured in the United States, Thailand or Taiwan. Note: this may vary through the life of the product.

思えば,IBM日本語鍵盤が,その設計上の独自性を保持しえたのは,5576-C01というTrackPoint IIを備えた鍵盤まででした。その後IBM日本語鍵盤は,おそらくはもっぱらコスト上の理由により,その他大勢の鍵盤群に身を投じることとなります。英語鍵盤においても,本機は歴史の転回点に位置している気がします。上記IBMのサイトには,本機と共に,Windowsキーのついたゴム椀式の41H9274(白)および76H0109(黒)という型番が挙げられています。enhanced 101座屈ばね鍵盤である92G7453および92G7454もまだ見ることができます。つまりこの時期は,これら異なる設計の鍵盤を,各人が好みに応じて選択することが可能だったのです。Windows 95が帝政を布告する直前,ほんの一瞬だけ花開いた幸せな世界の出来事でした。