Thursday, November 21
Shadow

1397681

1397681

Date: 12-02-92
Plt. No: F8 Model M
Made in the USA

いわゆる84key Space Saverです。1992年製との表記があります。この時期はIBMがレキシントンにあった鍵盤製造部門を分離して間もない頃で,その混乱を反映してか,IBM鍵盤には様々な型番が観察されます。本機も,1980年代のSpace Saverに見られる特徴と,1990年代の鍵盤に特有の排水口などの特徴を併せ持ち,興味深い機種となっています。

写真のとおり,青ロゴです。1391401のところで述べたとおり,IBM鍵盤に青ロゴが現れるのは1992年あたりからですので,これは1990年代的な特徴です。一方,印字の色は,AltとSysReq(PrintScreenキーの前面)が緑色で,それ以外は黒色です。NumLock時に使う部分には下の写真のように,灰色の印字で文字が打たれています。これは1988年製の1393278と同様の配色ですが,本機のほうが文字色が薄く,茶色がかって見えます。

キートップは外れません。52G9658や92G7461と同様に,キーが一体構造となっています。これらがいずれも1996年製であるために,この一体構造は比較的後期のものだと思っていましたが,1992年製の本機がこのような構造をもっているとは私には意外でした。なお,基板の色は1370475と同様に黒で,安定金具はすでにこの時代にはありません。

最も興味深いのは排水口の特徴です。Babo氏の解説によれば,排水機構の整備は1993年以降とのことです。本機は1992年製ですので,排水口を備えた鍵盤の中で最初期の部類に入るでしょう。排水口はあるのですが,導水路が見えず,UNI04C6や42H1292と同様に単に穴があいているだけです。UNI04C6はそのラベルに明記されているように,1394047というIBMのSpace Saverを改版したものですが,この1394047という機種もこの時期に作られたものなのでしょうか。

この種の簡素版の排水機構は,42H1292がそうであるがゆえに,コスト低下の文脈で語られることが多いのですが,本機の場合は必ずしもそうとは言えません。実際,本機は,当時ですらもはや過去の遺物であったスピーカー穴を持つことからも推測されるように,筐体は1391401譲りの剛性を持っています。

写真からわかるとおり,ケーブルは着脱式で,1391401等のケーブルがそのまま使えます。言うまでもなく,薄膜接点上に座屈ばね機構のスイッチを使ったもので,打鍵感は他のすべての座屈ばね鍵盤と差がありません。オークションサイトなど見ていると,IBMの座屈ばね式英語鍵盤の中で打鍵感の差が存在するようなことを書いている方も多いのですが,IBM PC系は別にして,スイッチ機構の設計は完全に同じであり,そのようなことはありえません。違いがあるとすれば経年変化か,筐体の共鳴振動数の微妙な違い程度だと思います。いずれも自慢気に吹聴するレベルの違いではありません。

1980年代半ば産の鍵盤と正確に同じ打鍵感を,42H1292Uなどの現行品において保っているという点に,アメリカの余裕のようなものを感じます。日本に比べはるかに歴史の浅いかの国のこと,われわれが例えば漆塗りの椀に感じるような安心感を,彼らはこのいにしえのキータッチに感じているのかもしれません。

思うに本機は,1391472もしくは1393278と同様の旧設計の基板に,新設計の一体型キーを載せ,それらを排水口をもつ新設計の筐体に格納したものなのではないでしょうか。このように書くと本機は,どこか一貫性のない過渡期の落し子という気がしてきます。本機が作られた頃,IBMは創業以来最悪の赤字決算にあえいでおり,その崩壊はもう間近と見られていました。本機の設計にも,その当時の混乱が垣間見えて興味深いところです。