Saturday, December 21
Shadow

5576-003

5576-003

P/N : 65X1121
EC No. A27689

A01についで人気のある機種です。キー配列の問題から,常用機にはなっていませんが,私も大好きな鍵盤です。キートップを外すことができ,掃除が楽です。筐体およびキートップのプラスチックの材質は極めてよく,数年使ってもオフィス焼け・脂焼けの症状は一切ありません。スイッチの構造はA01と完全に同じで,日本IBMがブラザー工業とともに開発したスイッチを採用しています。ブラザー工業の高い技術力に敬意を払い,私はこれをブラザー・スイッチと呼ぶことを提唱しています。打ち具合も完全に同じです。押すたびにカチッとした音がします。そして完全弾性衝突しているかのように,指に跳ね返りの反発を感じます。この反発を利用して,タタタタタンという感じで躍動感のある打鍵ができます。叩く人向きです。押すように鍵盤を触る方には,キーが重過ぎると思います。

私の手元に2台ありますが,そのS/Nは一方は99A1で始まり,他方は99ACで始まります。IBM PS/55モデル5530-Lのページでは,S/N(シリアル番号=製品番号)が99A5976以前は使用不可とあります。5576-002でよく青丸付かどうかが話題になります。私はPS/55で使用不可のものを区別するために青丸を付けているものかと思っていましたが,仮にS/Nが99A1***,…,99A9***,99AA***,99AB***,…のように進んでいくならば,このS/Nの制限と青丸は関係なさそうです。不思議なことに,99ACの方にだけMade in Japanとの刻印があります。なお,時としてS/Nによる品質の差が取りざたされますが,私の知る限り,明確に品質差が存在する証拠はありません。個体差の範囲と思われます。

使用頻度が低いうちは,鋼の机の上でパチンコ玉を落とした時のように,カチッというクリック音がします。ばねのキンキンした残響音は耳につきません。この点はenhanced 101系の英語座屈ばね鍵盤とやや違います。その場合打ち込んだ時に,指の衝撃をある程度吸収する感じがしますが,003は弾性衝突する感じがします。ここにタイプライター文化の影響を感じます。タイプライターは,ある程度の長さのハンマーを振る機構になっているため,打ち込んだ時の反発は,ハンマーの腕の撓みのため,弾性衝突的ではありえません。enhanced 101の座屈ばね機構は,それを意識して打ち抜き感をあえてやわらかくしたのでしょう。

これは座屈ばね機構ですが,スイッチが丸ごと基盤から抜けるようになっています。この構造に特有のばねの残響音は,英語鍵盤に比べるとかなり高い音で,スイッチの加工精度の高さ,はめあいの精密さがしのばれます。北口氏は,このあたりの事情を「キーを叩くと『パシュン・パシュン』と厳格なスプリング音がします」のように素敵に表現されています。「厳格な」スプリング音。そう。がちゃがちゃ野放図な音が出るのではありません。コツコツ,と,紳士が部屋のドアを静かにノックした時のような音がします。かすかに聞こえるばねの残響も,絹ずれの如しです。ひとつにはこれは,A01同様の,筐体の安定感に負っています。後ろのねじを外してガワを外してみると,筐体のプラスチックの型が極めて精密に作られていることがよくわかります。はめる時はパチッと音を出してはまります。

打鍵感の経年変化はenhanced 101より大きいと思われます。手元の一台は,JとFにテカリが出ている程度に使い込まれていますが,使い込まれてないものに比べて,ばねがやわらかくなっています。ばねの残響音もやや聞こえます。上記の反跳感には変化がないので,使い込んでばねが多少緩んだくらいのほうが,私には使いやすく感じます。

そのそもこの構造のスイッチは,日本語鍵盤の標準から見ると硬めに設定されています。これについてはSPARC氏の測定を参考にしてください。構造史のところでも言及しましたが,キーを押す際の最大荷重は60gf(gram-force)であり,A01と並んで日本語鍵盤としては最大の部類に入ります。使い込むことで1割程度荷重が減少していると思います。

コードは着脱式で,5576-001,002,A01と共通に使えます。しかしenhanced 101系とはコネクタが少し異なり,共用できません。コネクタ形状が同じだと紹介しているページもあるので注意が必要です。上の写真に示します通り,PC本体との接続口のほかに,PS/2形状の接続口が二つ装備されています(うち一方には通常カバーがかかっています)。スピーカーおよびボリュームスイッチもあります。このスピーカーはPS/55以外では使えないようです。

残念ながらキー配列は,002と同様に過去の遺物です。左Altがありません。Windows2000とMeではドライバ問題があります。ここを参考にがんばってください。Windows XPでは完全に使えなくなるのではと心配しています。そのため,よほどキーの構造やキータッチに興味がある方を除き,これから購入するのは危険です。なお,レジストリをいじらず,標準のドライバを使った場合,IME起動のショートカットが使えないとか,記号の刻印と入力結果が異なるとか,不都合はありますが,英語を入れる分には問題なく使えます。また,マウスでIMEを起動すれば,日本語ローマ字入力も可能です。

2001年8月現在,新品入手はほぼ不可能です。本機は、5576系の機械ばね式鍵盤の中ではもっとも最近まで、すなわち2000年の春ころまで、日本IBMからPC用の保守部品として入手できました。2000年4月5日現在の資料によれば、本機晩年の価格は1万5000円です。そのためなのか何なのか、デッドストック物の新品002などと比べてよく見かける印象があります。Yahoo Auctionsでの相場は10000円~15000円というところでしょうか(2001年)。日本ではSpace Saverモノが人気なので,今後も価格は高値安定するのではないでしょうか。